脳卒中後の方の病変とその影響について

脳卒中後の肩関節にはさまざまな病変が発生しやすく、これが慢性的な痛みや機能障害の原因となることが知られています。

本記事では、脳卒中患者における肩の病変について、システマティックレビューやメタアナリシスを基に解説します。

脳卒中後の肩の病変の主な原因

1. 筋力低下と麻痺

脳卒中により肩周囲の筋力が低下し、特にローテーターカフ(回旋筋腱板)や上腕二頭筋の機能が低下します。

これにより肩関節の安定性が失われ、腱や滑液包への負担が増大します。

2. 肩関節の不適切な使用または不使用

運動不足(廃用症候群):麻痺や痛みのために肩を動かさなくなると、関節が拘縮し、炎症が生じやすくなります。

誤った動作パターン:肩の動かし方が非効率になることで、特定の筋や腱に負担がかかり、病変が生じることがあります。

3. 肩関節の亜脱臼

麻痺により三角筋や回旋筋腱板の機能が低下すると、上腕骨頭を支える力が弱まり、肩関節がわずかにずれる「亜脱臼」が発生します。

亜脱臼によって腱や滑液包が過度に引き伸ばされ、炎症を引き起こします。

4. 痙縮(Spasticity)

脳卒中後には肩の筋肉が異常に緊張しやすくなり(痙縮)、特に肩内旋・内転筋群(大胸筋、広背筋、肩甲下筋)が過剰に収縮します。この結果、肩の動きが制限され、炎症や腱の摩耗が進行します。

5. 痛みによる悪循環

肩に痛みが出ると、無意識に肩を動かさなくなり、可動域が制限され、さらなる拘縮や炎症が進行するという悪循環に陥ります。

脳卒中後に発生しやすい肩の病変

研究によると、脳卒中後の肩の病変には以下のようなものが多くみられます(発生率を併記)

1. 上腕二頭筋腱水腫貯留(39.2%)

• 上腕二頭筋長頭腱(LHB:long head of biceps tendon)の周囲に水腫が貯留し、炎症や痛みを引き起こす状態です。

2. 上腕二頭筋腱炎(35.5%)

• 上腕二頭筋長頭腱が炎症を起こし、肩の前方部分に痛みを感じることが多くなります。

3. 三角筋下滑液包炎(29.3%)

• 三角筋の下にある滑液包(関節の動きを滑らかにするクッションの役割を持つ部分)に炎症が生じ、動作時の痛みを伴います。

4. 棘上筋腱炎(24.6%)

• ローテーターカフ(回旋筋腱板)の一部である棘上筋の腱が炎症を起こし、肩の運動に制限をもたらします。

1. 上腕二頭筋長頭腱の病変(LHB病変)

病態:上腕二頭筋長頭腱(LHB)は肩関節の前方を通る細長い腱で、肩の安定性に寄与します。麻痺や肩の不安定性により、LHBに過度な牽引力が加わることで、炎症や変性が生じます。

症状:肩の前面に痛みが出現し、特に腕を前方に上げる動作(屈曲)で痛みが増します。

2. 上腕二頭筋腱炎

病態:LHBの摩耗や炎症が進行し、腱が腫れたり、小さな断裂が生じたりします。これにより痛みと運動制限が悪化します。

症状:肩の前方に痛みが生じ、特に腕を外旋しながら持ち上げる動作で疼痛が増強します。

3. 上腕二頭筋腱水腫貯留

病態:LHBの炎症に伴い、腱周囲に水分が過剰に貯留し、腫れを引き起こします。

症状:肩の前面に腫れや圧痛があり、動かすと違和感を感じることがあります。

4. 棘上筋腱炎(回旋筋腱板炎)

病態:ローテーターカフ(回旋筋腱板)の一部である棘上筋腱が炎症を起こし、肩関節の運動に影響を及ぼします。

脳卒中後は肩関節の安定性が低下し、棘上筋が過度に伸張されることで炎症が生じます。

症状:肩を横に上げる(外転)動作で痛みが強くなります。長期化すると、腱の変性が進み、断裂リスクが高まります。

5. 三角筋下滑液包炎

病態:三角筋の下にある滑液包(関節の動きを滑らかにする組織)が炎症を起こし、腫れや痛みを引き起こします。

症状:肩の上部や側面に痛みを感じ、圧痛が出現することがあります。腕を上げる動作で痛みが増すのが特徴です。

6. 肩関節の拘縮(凍結肩 / 五十肩)

病態:肩を動かさない期間が長くなると、関節包や筋が硬くなり、可動域が大幅に制限される状態(拘縮)が生じます。

症状:肩の動きが極端に悪くなり、外転・外旋が特に制限されます。痛みが強く、夜間痛も伴うことが多いです。

脳卒中患者の麻痺側の肩関節は、非麻痺側と比べて特定の病変が発生しやすいことが報告されています。

これらの病変は、脳卒中による麻痺や筋力低下、肩関節の不適切な使用(または不使用)によって進行すると考えられています。

片麻痺とLHB病変の関係

肩麻痺を有する患者ではLHB病変(上腕二頭筋長頭腱の異常)が発生しやすいとされています。

LHB病変が生じると、肩関節の前面に痛みが現れ、運動時の不快感が増すため、リハビリの妨げになる可能性があります。

臨床的な対応とリハビリのポイント

脳卒中後の肩の病変を防ぎ、症状を軽減するためには、以下の対応が重要です。

1. 適切なポジショニングと支持

• 麻痺側の肩を支えるために、スリングやクッションを活用する。

2. 関節可動域(ROM)運動の実施

• 肩関節の拘縮や癒着を防ぐために、痛みが出ない範囲でROM運動を行う。

3. 上腕二頭筋長頭腱の負担を軽減する手技

• 適切なマッサージやテーピングを行い、腱の炎症を抑える。

4. 電気刺激療法(FES)や超音波治療

• 筋の収縮を促し、肩関節の安定性を向上させる。

5. 正しい肩の使い方を指導

• 不適切な動作パターンが病変を悪化させるため、適切な運動パターンを学習することが重要。

まとめ

脳卒中後の肩の病変は、上腕二頭筋長頭腱や回旋筋腱板を中心に多く発生し、肩関節の痛みや可動域制限の原因となります。

特に、LHB病変は肩麻痺のある患者で頻発するため、適切なリハビリ介入が必要です。

リハビリでは、ポジショニング、ROM運動、筋活動の促進、適切な負荷管理を意識することで、

症状の悪化を防ぎながら機能改善を目指すことが重要です。

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